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釧路家庭裁判所 昭和47年(家)258号 審判

申立人 青木定(仮名)

相手方 青木宏幸(仮名) 外五名

主文

一  申立人に対し、昭和四七年一二月より申立人の生存中

相手方青木宏幸は一ヵ月金六、〇〇〇円を

相手方青木満津男は一ヵ月金三、〇〇〇円を

相手方河野明子は一ヵ月金三、〇〇〇円を

相手方吉沢亜紀子は一ヵ月金一、〇〇〇円を

それぞれ毎月末日限り申立人方に持参または送金して支払え。

二  申立人の相手方林田照子および相手方遠藤高雄に対する申立を却下する。

理由

一  申立の要旨

申立人は「相手方ら各自は申立人に対し扶養料として毎月五、〇〇〇円を支払え。」との調停を求め、申立ての実情として、次のとおり述べた。

相手方らはいずれも申立人と遠藤ユキとの間の子供である。申立人は遠藤ユキと昭和二八年に調停離婚し、その後、四男の相手方遠藤高雄と共に函館市に居住して印刷業を営んでいたが、高齢のため事業をやめ、昭和四〇年頃、釧路市に居た長男の相手方青木宏幸を頼つて釧路市に来て、同人と同居した。しかし、申立人は同人との仲がうまくゆかず、昭和四二年頃別居し、以後、相手方青木宏幸から毎月五、〇〇〇円の送金を受け、また人の手伝いなどをして生活して来たが、高齢のため体がきかなくなり、働くことができなくなつたので、相手方ら各自に対し扶養料として毎月五、〇〇〇円を支払うことを求める。

二、本件の経過

本件については、申立人の調停申立に基づき、昭和四七年四月二六日、同年五月一〇日、同月二二日、同年六月五日、同月二一日にそれぞれ調停期日が開かれたが、調停が成立せず、審判手続に移行した。

三、当裁判所の判断

(1)  申立人の生活状況

調査の結果によれば、次の事実を認めることができる。

申立人は、相手方らの父親であり昭和四六年六月まで長男の相手方青木宏幸方に同居していたが、同人や同人の家族との折合いが悪くなり別居して現住所のアパートの一室を借りて単身生活し、同相手方より毎月五、〇〇〇円の扶養を受けている。

申立人は、昭和四七年五月より一〇月までは釧路市内の印刷会社の広告取りをして毎月約三万円の収入を得ていたが、以後仕事はなく、約一万円の現金の他資産もない。

申立人の全生活費として毎月二万九、〇〇〇円を支出しているが、そのうち煙草代二、四〇〇円を除き、二万六、六〇〇円は、申立人の現在の生活を維持するため、必要な支出である。

以上の事実および申立人の年齢、健康状態を考慮すると、申立人は昭和四六年一一月より扶養を要する状態にあると認めることができる。

(2)  調査の結果にあらわれた相手方らの職業、家族構成、収入月額、支出月額、資産、負債および負担可能な扶養料の限度額として述べるところ等は、別紙一ないし六記載のとおりである。

(3)  本件において、相手方らの具体的扶養義務の有無および扶養料の額の認定については、次の点を考慮するべきである。

(イ)  調査の結果によつて認められるように、申立人は、昭和四年二月一九日付届出により遠藤ユキと婚姻をなし、両人の間に相手方らが出生した。

申立人は函館市において印刷業を営んでいたが、相手方らが幼少のころから妾を囲い、賭事を好んで家庭を顧みず、相手方らに対し父親らしい愛情を示さなかつた。そして、昭和二五年頃印刷業が倒産してからは、遠藤ユキが飲食店を経営して家計を支えるようになり、昭和二八年五月二二日、申立人と相手方は調停により離婚した。申立人はその後も相手方らを扶養せず、相手方らは経済的にも精神的にも殆んど遠藤ユキによつて養育され、それぞれ苦労して成人し、現在に至つている。

そのため、相手方らはいずれも申立人を父親とは思わず、反感をもち、本件扶養請求を拒絶する態度を示している。

また、遠藤ユキは申立人と離婚するにあたり何ら財産上の給付を受けず、前記の如く飲食店を経営しながら相手方らを養育し、現在も病弱の身でありながら函館市において保険の外交員をして自活している。そして、同人の年齢や健康状態を考慮すると、同人も扶養を要する状態にあることが推認される。

(ロ)  別紙一ないし六に記載した相手方らの収入と支出の差をもつて、直ちに申立人に対する扶養料の額とすることはできない。申立人を扶養するために、相手方はその会社的地位に相応した生活を破壊しない範囲でその支出を切りつめる必要がある場合もあるし、また、相手方らが申立人を扶養することにより一切の貯蓄もできないような状態になることも避けなければならない。

(ハ)  相手方吉沢亜紀子および相手方林田照子の如く、自ら独立の収入がなく、配偶者の収入により生活しているものについては、その配偶者から婚姻費用として得られる金員の中に余裕があるとき、はじめて具体的扶養義務があると認めるべきである。そして、配偶者が申立人の扶養に積極的に協力する場合は前記の余裕以上の金額の扶養料を定めることもできるが、配偶者が協力的でない場合やその意向が不明の場合は、相手方の負担可能と述べる金額をそのまま前記の意味における余裕と認めることは相当でない。

(4)  以上に述べたところおよび調査の結果にあらわれた諸般の事情を総合し、申立人に対する扶養料の月額を、相手方青木宏幸について六、〇〇〇円、相手方青木満津男について三、〇〇〇円、相手方河野明子について三、〇〇〇円、相手方吉沢亜紀子について一、〇〇〇円と定めるのが相当である。相手方林田照子および同遠藤高雄については、申立人を扶養する能力がないものと認められる。そして、以上の扶養料の合計額一万三、〇〇〇円は申立人の生活を維持するのに足りないが、その余は公的扶助によるべきである。

(5)  よつて、相手方青木宏幸、同青木満津男、同河野明子、同吉沢亜紀子は金銭給付義務を負うことが明白となつた審判時である昭和四七年一二月より申立人の生存中毎月末日限り、前記認定の金額をそれぞれ申立人方に持参または送金して支払うべきものとし、申立人の相手方林田照子および同遠藤高雄に対する申立を却下することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 菅野孝久)

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